スカイマーク倒産危機の全貌
国内航空3位のスカイマークが苦境に立たされている。倒産の可能性も懸念される重大な事態だという。
スカイマークに、いったい何があったのか。
2014年7月31日、スカイマークは第1四半期(4〜6月)の決算報告で、事業継続に「重要な疑義」があると付記した。
「重要な疑義」の内容とは、エアバス社との大型旅客機「A380」の購入契約解除トラブルだ。これにより巨額の損失が発生する可能性があるためだという。
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エアバス社にA380を6機発注したけど払えなくなった
スカイマークは今から3年前の2011年、エアバス社に世界最大のスーパージャンボA380を6機発注。
3年前の当時は経営が好調だったため、欧米路線のビジネスクラスとプレミアムエコノミーを、低価格で提供するという賭けに出た。
総資産374億円のスカイマークが1600億円の飛行機を買う
当時のスカイマークの総資産は374億円。対して、エアバス社の「A380」6機は約1600億円にもなる。
まさにハイリスクとしかいいようがない投資だったが、あえて決断したのだった。
ところが2014年7月29日の記者会見で西久保愼一社長が、「環境の変化があることに対して少し甘く見ていた」と反省を口にしているように、最近のスカイマークは円安による燃料費の高騰や、LCCとの客の奪い合いにより、業績不振に陥っていた。
ここにきて当初の1600億円の支払いが難しくなってきたスカイマークは、2014年4月からエアバス社に対して密かに売買契約の見直しを打診していた。
その見直し内容とは、発注した6機のうち2機は、受け取りの時期を遅らせ、残りの4機の無期限の契約延期を求めるという、エアバス社にとっては到底飲めないものだった。
代金を払えないと踏んだエアバス社が契約解除を申し出、違約金700億円請求
エアバス社はこの見直し内容に対し、スカイマークの経営体力を不安視。
そして今回の契約の全面解除を申し出ることになり、700億円という違約金をスカイマークに突きつけたのだ。
航空旅行アナリストによると、700億円という違約金は前代未聞だという。
エアバス社がクライアントであるスカイマークに対して、このような金額を突きつけ、大手航空会社の傘下に入るよう求めたのはスカイマークを見限ったということ。
スカイマークは本業の不振で手元資金が72億円にまで減っており、額面通りの金額を支払うことになれば、経営が危なくなる可能性があるという。
エアバスが顧客であるスカイマークに強気な理由
スカイマーク社を倒産に追い込むレベルと言ってもいい、エアバス社の巨額違約金。
本来顧客であるはずのスカイマーク社に対してエアバス社が強気なのにはある理由がある。
それは、A380購入に際してスカイマークに担保となる資産やメインバンクがないため、エアバスが資金調達のスキームを作っていたことが背景にある。
スカイマーク社はエアバス社にA380の資金繰りに関しておんぶにだっこ状態なのだ。
「A380」日系航空会社の初就航の夢が途絶えた
A380は、世界初の総2階建て客室。広いスペースを生かした豪華設備が自慢だ。
2014年現在、日本にはシンガポール航空とタイ航空が就航させているだけで、日系航空会社の初就航がスカイマークになる予定だっただけに、利用者にも残念な結果になってしまった。
航空・旅行ジャーナリストによると、社長の西久保氏はA380を成田―ニューヨーク路線に飛ばし、ビジネスマンをターゲットにする戦略だったという。
ANAやJALの場合、同路線のビジネスクラスの運賃は100万円程度だが、西久保氏はビジネスで往復40万円、プレミアムエコノミーで往復20万〜25万円くらいの料金設定を考えていたようだ。
しかし、A380を操縦できるパイロットの調達、ビジネスクラスの接客ができるCAの教育、足がかりのないニューヨークで修理や整備をどうするのかなど、課題はたくさんあったという。
西久保社長は大手の傘下に入るくらいなら倒産を選ぶ?
今後の焦点は700億円もの巨額違約金をどこまで減額できるかだ。
しかし、A380という最新鋭の機体ということと、世界的な燃油高騰による経済状況もあり、減額は難しいとみられている。
前出の航空ジャーナリストによると、2014年6月、エミレーツ航空はエアバス社のA350を70機も購入キャンセルしているが、エアバスは違約金を要求せず、受け入れているのだという。
エアバスが今回ここまで強硬な態度に出たのは、A380という機種の問題が大きいという。
開発費に約150億ドル(1.5兆円)を注ぎ込んで最先端の装備を搭載しているA380だが、世界的な燃油の高騰により、今の航空会社は中型機をより好む傾向にあるのだという。
通常、キャンセルされた機体は他の航空会社に売られるが、A380ではそれが難しく、スカイマークが払った前払い金の返却にも応じられない懐事情がある。
今後は裁判になる可能性もあるそうだが、西久保氏は、元々インターネット業界出身のワンマン経営者なので、大手の傘下に入るという判断はしないと思うという。
ということになると、西久保氏が最終的に倒産という選択肢を選ぶ可能性は濃厚になってくる。
スカイマークが倒産を避けるためにはどうすればいいのか
A380という最新鋭の超大型旅客機を導入して、成田ニューヨーク間を格安で運航するという賭けが裏目に出てしまったスカイマーク。
スカイマークがこの危機を乗り越えるにはどうすればいいのだろうか。
航空経営研究所・稲垣秀夫主席研究員によると、独立を保ちながら、不採算路線を廃止して、ドル箱の羽田の発着枠で堅実に運営していけば、安定した黒字経営ができるハズだという。
仮にJAL、ANAの傘下に入れば、マーケットが寡占化され、サービスの低下や、運賃の値上がりにも繋がりかねないと、スカイマーク社の立ち位置を評価した。
航空自由化の先鞭をつけたスカイマークが、最大の試練を迎えた。
期待された“庶民の翼”はどうなるのか、注視していきたい。
【2014/10/3追記】違約金200億円で大筋合意―倒産や身売りといった事態はまぬがれた
2014/10/3の朝日新聞の報道で、両社が違約金を200億円規模にすることで大筋で合意したことが明らかになった。
年間売上高の4分の1の資金を失うダメージは大きいが、スカイマークは倒産や身売りといった事態はまぬがれることになり、経営を続けられる見通しだという。
西久保慎一社長は2014年9月末に渡仏し、エアバス幹部と協議。
エアバスは当初の予定通り、700億円規模の違約金を求める構えだったが、「スカイマークの経営に影響を与えない金額にする」として、前払い金としてすでに受け取った約230億円の範囲に収める考えを示し、態度を軟化させた。問題となっていた造りかけの2機が他の航空会社に売る見通しがたったことも大きい。
最終的に違約金の額は200億~230億円で調整中で、スカイマークは2014年9月中間決算で特別損失を計上する方針だという。
これで一息ついた感のあるスカイマーク倒産問題。今後は堅実な経営を続けてもらいたいものである。
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