過去最多となる計9作品が来日!
2018年の10月から、日本美術展史上最大となる「フェルメール展」が開催される。
17世紀オランダ黄金時代の巨匠、ヨハネス・フェルメールの作品のうち、東京と大阪合わせて過去最多となる計9点が一堂に会する。
フェルメールは別名「光の魔術師」「光の画家」とも呼ばれる。
彼の描く温かな光の表現や美しい女性の表情は世界中の人々を魅了している。
今回のフェルメール展では、貴重なフェルメール作品のおよそ4分の1となる9作品が来日する。
今回は日本美術史上過去最大のフェルメール展であり、一度にこれだけの数のフェルメールの名画を見ることができる機会は非常に貴重だと言えるだろう。
今回は、2018年に来日するフェルメール作品の見どころポイントを徹底解説。
フェルメール作品の美しさの秘密を紐解いていく。
ワイングラス
今回日本初公開となる本作。
2人の男女が屋内でワインを嗜む様子が描かれている。
光の魔術師と言われたフェルメールの素晴らしい技法を存分に堪能できる一枚だ。
テーブルに掛けられた布の表現、衣服の表現、そして男性が片手を掛けている酒瓶の金具部分の表現など、ディテールをこだわり抜いた光の表現によって、圧倒的なリアリティを生み出している。
この絵の見どころとなるのは、二人の関係性だ。
男性は大きな黒いつば広帽をかぶっており、この家の主人ではないように見える。
さらに男性は女性にワインを飲ませようとしている。
さらに椅子の上には楽器のリュートが置いてあり、ついさっきまで男性が弾いて聞かせていたことが想像できる。
もしかすると2人は恋人同士、または不倫関係にあるのではないか、と推測できるのだ。
絵の中にある小道具から物語を想像するのもフェルメール作品の楽しみ方のひとつなのだ。
牛乳を注ぐ女
フェルメールの傑作といっても過言ではない『牛乳を注ぐ女』が今回のフェルメール展で再び来日する。
フェルメールがキャンバスに描いた奇跡ともいえる光の表現を間近で見られる貴重なチャンスといえるだろう。
『牛乳を注ぐ女』は発表当時から傑作と称賛されていた一枚だ。
台所仕事をする女性の何気ない日常の一瞬を切り取りながらも、静かで神秘的な美しさが漂う。
女性が持っている底の見えない壺から注がれるとろみのある牛乳の表現は、まるでそこだけが動き続けているように感じ、どこか別の世界に吸い込まれるような不思議な感覚になってくる。
この絵の見どころはなんといってもガラスを通して降りそそぐ、やわらかな光の表現だ。
画面全体から部屋の匂いや温度まで伝わってきそうな、圧倒される光の世界である。
女性の左半身には濃い影が落とされ、明るく光が当たっている壁と対比することによって女性が浮かび上がるように描かれているのもポイントだ。
また、テーブルの上のパンは「ポワンティエ」と呼ばれる点描画のような手法でハイライトを表現している。
光の魔術師といわれたフェルメールの世界を堪能できる一枚。
ぜひ直接見てその世界に圧倒されてほしい。
手紙を書く婦人と召使い
こちらはフェルメールが晩期に描いた作品。
必死に手紙を書く婦人と、あきれたような表情で窓を見る使用人が描かれている。
二人の間には身分の差があるはずなのに、どこか友人同士のような親しさが感じられる雰囲気が感じられる。
窓から差し込む光が薄暗い屋内の2人をやわらかく照らしている。
この見事な光の表現はまさにフェルメールらしい演出だ。
床にはぐちゃぐちゃにして投げ捨てられた手紙が描かれており、婦人が手紙を書く様子からはどこか焦りの感情すら伝わってくるようである。
この絵の見どころは絵の中に書かれた絵、画中画だ。
フェルメールの絵画には画中画が登場することが多く、その画中画には何かしらの意味が込められている。
たとえばこの絵画の画中画は「モーセの発見」が描かれている。
「モーセの発見」は王の脅威から逃れるため川に流された幼子のモーセを王の娘が発見し保護するという、敵対者との争いが鎮まるきっかけが描かれた絵画だ。
つまり、婦人が必死に書いている手紙によって物事が収束に向かうことを示唆しているようにも読み取れる。
光の表現だけでなく、画中画など、絵に描かれたモチーフにも注目してみると、フェルメール作品はより楽しめるようになる。
マルタとマリアの家のキリスト
光の魔術師フェルメールの原点であり、フェルメールのデビュー作。
それがこちらのマルタとマリアの家のキリストだ。
フェルメールが20代前半の頃に描いた、貴重な宗教画だ。
フェルメールは一般民衆のふとした瞬間を絵画に落とし込む「風俗画」を得意としたが、20代の前半には聖書や神話などをモチーフにした「物語画」を描いていた。
物語画を描くことは当時の画家にとっては当たり前のことであり、作品としての価値も高く見られる傾向にあった。
フェルメールが物語画を描いていた過去があることはなんら不思議な事ではない。
この絵で画面一番右に座っているのがイエス。
その後ろでパンかごに手をかけているのがマルタ。
座り込んで話を聞いているのがマリアだ。
この絵に描かれているのは、マリアが家事をしないことにマルタが不満を口にし、それをキリストが、マリアはよく話を聞く子だからそう熱くなりなさんな、とマルタに諭しているシーンだ。
この絵の見どころは、フェルメールのデビュー作でありながらも、「光の魔術師」と呼ばれる片鱗(へんりん)が見られる点だ。
画面左側から光が差し込み、画全体をやわらかく照らす手法は、この頃にはすべてに確立している。
フェルメールが独自に築き上げた光と影の表現の開花を感じさせる一枚といえるだろう。
真珠の首飾りの女
鏡を前に身支度を整えながらうっとりとした表情の女性が描かれた一枚。
緻密に描かれたステンドグラスを通したうっすらとした光から生まれる美しく繊細な世界は、光の魔術師といわれたフェルメールならではといえるだろう。
真珠の首飾りを結ぶためのリボンを持ち上げた女性の視線の先には小さな鏡。
鏡はちょうど女性の顔が映り切るほどの大きさだ。
鏡に向かって微笑む女性は、自分の美しさに見とれているかのようである。
この絵の見どころは、ステンドグラスを通して描かれた繊細な光の世界と、あともうひとつ。
それは、この大きな白い壁だ。
実はこの白い壁にはかつて地図が描かれていた。
しかし、地図を塗りつぶすことで女性と、女性を照らす光を主役として際だたせることができたのである。
今は塗りつぶされた地図の存在を思い浮かべながら、鑑賞するのもよいだろう。
手紙を書く女
暗い部屋でひとり手紙を書く女性がこちらの存在に気づき、視線をこちらに向けている。
本作品の前に立った者は、彼女と目を合わせることになる。
フェルメールは手紙を書く女性を頻繁に描いたが、手紙を書く女性がこちらに向かって微笑んでいる情景を描いた作品は他には存在しない。
そして、このこちらに向かって微笑んでいる女性の表情こそが本作の魅力だ。
この女性の視線に魅了されたコレクターは多かった。
本作はアメリカの大富豪であるJ.Pモーガンをはじめ、オランダやベルギーなど多くのコレクターの手に渡った末に、ワシントン・ナショナル・ギャラリーに寄贈された。
この作品にはフェルメール作品に何度も登場する手紙、真珠、黄色いマント、ライオンの椅子が所狭しと描かれているところに注目したい。
これらのモチーフはフェルメールの手元に実際にあったと考えられており、特に真っ白な真珠は、光の表現にこだわりを持っていたフェルメールにとって、光沢感を演出できる重要なモチーフだったといわれている。
リュートを調弦する女
本作はフェルメール中期の作品と考えられているが、絵の具の摩耗や損傷している部分が激しく、さらに作品が誰の手に渡っていったのかもよくわかっていない部分が多い。
さらに光が当たった女性の顔には眉がなく、同時期に描かれた美女たちと比較すると奇妙な顔立ちをしている。
女性の手には楽器のリュート、机の上には楽譜と、恋愛を意味する音楽に関係する小物が各所に置かれている。
さらに背景に掛けられた世界地図と、画面右下の誰も座っていない椅子と合わせて「恋人は航海の真っ最中で不在である」ということを暗示していると解釈できるのだ。
窓に向けられた女性の目線は、恋人のことを考えふと視線を外に向けた瞬間、もしくは、恋人が帰ってきた瞬間を切り取ったものと考えられるのだ。
保存状態がもう少し良ければ、フェルメール中期の作品の中では屈指の名作になっていたかもしれない惜しい作品とされている。
しかし、曇りガラスを通して部屋に差し込む繊細で美しい光の世界は、フェルメールしか表現できないものだ。
登場人物が何を想っているのかを想像しながら鑑賞するのもフェルメール作品の楽しみ方の一つだ。
赤い帽子の娘
赤い帽子の娘は、フェルメール作品の中でも最も小さな作品だ。
A4サイズの紙よりも一回り小さいサイズをイメージしてもらえばわかりやすいだろう。
また、この作品はカンヴァスではなく木のパネルに描かれているのも珍しい。
この絵で最も印象的な赤い帽子は、粗いタッチで絵の具を塗り重ねることでふさふさした羽毛の質感を表現している。
画面右側から入り込む眩しい光を表現するために、唇や鼻の頭、耳飾りなどにはハイライトを施し、肌の潤いや光沢感を自然に描き出す技法が使われている。
小さい作品でありながらも、光の魔術師、フェルメールの卓越した技術を垣間見ることができる作品である。
恋文
こちらは大阪会場限定で公開される作品だ。
フェルメールが後期に描いたものだ。
画面手前は暗い壁で仕切られているという不思議な構図の作品だ。
見るものはまるで手前の部屋から奥の部屋をのぞき見しているような感覚になる。
フェルメールの見事な光と影の演出にさらに奥行きが加えられ作品により迫力が増しているのだ。
奥の部屋では困ったような表情で使用人を見上げる婦人と、いたずらっぽい笑みで婦人を見る使用人のユーモラスな表情が描かれている。
フェルメール作品で見られる、身分を超えた親しさを感じられる作品だ。
婦人の膝には「恋」を暗示するリュートが載せられており、読んでいる手紙は恋文であることがわかる。
また、2人の背後には帆船(はんせん)と青空を描いた風景画が描かれている。
この画中画は遠方からの手紙であることを示唆している点にも注目だ。
終わりに
いかがだっただろうか。
2018年下半期、最も注目すべきといっても過言ではない「フェルメール展」。
選びぬかれたモチーフ、綿密に計算された構図、徹底した細部の再現、そしてまばゆいほどに表現された光。
光の魔術師と呼ばれたフェルメールの作品の数々を身近に見ることができるチャンスを、ぜひ逃さないようにしてほしい。
参考資料
※真珠の耳飾りの少女は今回の2018年フェルメール展には出展しません。
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