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おんな城主は実は男だった―大河ドラマ時代考証担当者も揺れる井伊直虎の正体

おんな城主は実は男だった―大河ドラマ時代考証担当者も揺れる井伊直虎の正体

直虎は女か男か
大河ドラマ『おんな城主 直虎』で、柴咲コウ演じる主人公・井伊直虎。

戦国の世に「女城主」として直虎という男性の名前を名乗り、井伊家の再興に努めた女性―。

そう、女性である。

しかし、これまで女性として知られてきたが実際の直虎は「おんな城主」ではなく男だという説が浮上。

おんな城主がスタートする直前の2016年の年末に、メディアを賑わせた。

それから2017年になり何事もなく放送が開始された『おんな城主 直虎』。

現在、この議論はどうなっているのだろう。

今回は「男かも派」「女派」の見解を比較しつつ、現在の議論を追っていくことにしよう。

女派

作家・童門冬二氏

『小説 上杉鷹山』など歴史と人間をテーマにした作品を発表し続けている作家・童門冬二氏は

『井伊家伝記』(1730年)に記載されている

直盛の子について「次郎法師は女であるが井伊家を継ぐ家に生まれたので跡継ぎの名と僧侶の名をかねて次郎法師という」

と書かれている点を重視。

直盛に跡継ぎとして姫がいたことが確かという点から、次郎法師が女城主直虎になったという通説に基づいてサンデー毎日誌にて解説をしている。

男かも派

井伊美術館館長・井伊達夫氏

井伊家ゆかりの美術品などを保存・展示する、京都にある井伊美術館の井伊達夫館長によると、

井伊家が当主を務めた彦根藩の記録を調査したところ

「直虎は女ではなく男だった」

という結論に至ったという。

実は、井伊直虎は大河ドラマの主人公ではあるが、現存する史料が極めて少ないのだ。

NHK公式サイトのあらすじによると

直虎は遠江(とおとうみ・現在の静岡県西部)の井伊谷(現在の浜松市北区)の娘として生まれたとある。

生年も幼名も不明とされている。

出家して「次郎法師」を名乗るが、相次ぐ戦争や策略によって家督が次々と命を落とす中、井伊家を守るために還俗(出家した人が俗人に戻ること)する。

そのあとに「女城主」として直虎を名乗り、唯一生き残った井伊家の男子を守りながら再興を目指すというストーリーだ。

TIPS!
直虎が育てた男子とは、後に徳川家康に重用されて「徳川四天王」の一人に数えられる井伊直政だ。

関ヶ原の戦いなどの戦功により彦根に領地を与えられて彦根藩の初代藩主となった戦国武将なのである。

安静の大獄・桜田門外の変に出てくる井伊直弼は彦根藩の第15代藩主。

江戸時代まで続く名門である井伊家の窮地を救った「女傑」。

しかし、井伊家の末裔が史実ではないと言うのだ。

次郎法師が井伊直虎になった史料は存在しない

井伊美術館・井伊達夫館長によると

  • 井伊直虎が『次郎直虎』を名乗っていたこと
  • 井伊直盛の娘に出家して『次郎法師』となった女性が実在していた

この2点は明らかなのだが、

次郎法師が井伊直虎になったことを示す資料は存在しないのだという。

2人の次郎はそれぞれ別人なのだが、

同一人物だと誤解されて広まってしまった可能性が高いのだという。

文献によっては次郎直虎(井伊直虎)と次郎法師(出家した女性)を同一人物とした場合に説明が成り立たなくなる文献もあるという。

さらに次郎法師が幼い直政を育てたという大河ドラマ上のストーリーも明確な根拠は存在していないのだ。

次郎直虎は井伊家の家系図にも存在しない謎の男?

井伊達夫氏の最新の研究では、

彦根藩の記録などの文献を調査したところ

次郎直虎(=井伊直虎)という人物は井伊家の家系図にも存在せず

少なくとも井伊直盛(次郎法師の父)とは関係のない男性であり、

ごく短い期間、井伊家の実質的な支配者となった人物なのだという。

TIPS!井伊達夫館長に対しての厳しい指摘も
週刊新潮が2017年2月2日号で、井伊氏を「怪しい館長」として、自分の美術館をアピールするための話題作りだという記事を掲載した。

井伊氏は「井伊」と名乗っているが、昔は別の名前で、井伊家の分家の末裔と養子縁組して「井伊」と名乗るようになったと指摘。

もともとの本職は甲冑をメインに扱う古美術商であり、商魂のたくましさについて触れている。

徳川家康とされる兜を、もともと地味な兜だったものをスタッフに命じて金箔を全面に貼り付け、値段を吊り上げるという度を超した修復についても指摘している。

井伊氏自身は金箔を貼り付ける修復については「どこでもやっていること」と言及しているという。

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慎重な検証が必要派

次郎直虎(=井伊直虎)男説は確定に時間を要する

『時代考証学ことはじめ』の共同著者である安田清人氏によると、

井伊直虎は実は男だという説は前からあるが、研究者によって説が違うという。

直虎が女性だったことを示す決定的な史料が存在しないことが問題を複雑化させているのだ。

男か女かという問題は復習の研究者による精査が必要であり史実がどうかを確定するにしても相当な時間を要するそうである。

大河ドラマの時代考証を務める小和田哲男・静岡大学名誉教授は

新聞各紙で「直虎が女性であることを否定するものではない」と否定。

もう一人の時代考証担当者、戦国史研究者の大石泰史氏は

「直虎に関しては史料が少なかったので時代考証をすすめる中で新資料が出てきた意義は大きい」

と肯定的な反応を見せる。

そもそも戦国武将・井伊直盛の娘である『次郎法師』が成長して武将『次郎直虎』になるという根拠は極端に言えば同じ次郎という名前だったからということだけだという。

さらなる史料が出てくれば、今度男だったという結論もあり得るという。

時代考証担当者の間でも「女」「男かも」で見解が分かれている現状なのだ。

大河のストーリーは想像に頼る部分が大きい

大河ドラマのスタッフが井伊美術館に赴いた際に、

ストーリー作りは“想像が占める部分が大きい”という話をしていたという。

ドラマにするなら脚色してドラマチックにすること。

ドラマはドラマとして描く。

史実を解き明かすのは研究者の仕事と責任でドラマ制作者ではないのだろう。

NHKの見解「あくまでフィクション」

この件に関してNHKは「あくまでフィクション」というスタンスを崩さない。

1年間、視聴者の皆さまに楽しんでいただける大河ドラマを制作してまいります(広報局)。

という。

史実ではないという議論は、ドラマの関心が高まるのでネガティブな話題じゃないと捉えることもできる。

演技の幅が広がるという点で、井伊直虎は大河ドラマ的には美味しいキャラクターであるとも言えるのだ。

確かに“おとこ城主直虎”ではあまり観てくれそうにないかもしれない…。

井伊直虎を演じる柴咲コウの幅のある演技に期待したい。

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